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米澤穂信『さよなら妖精』

さよなら妖精 (創元推理文庫)

さよなら妖精 (創元推理文庫)

ブックオフで見かけた『王とサーカス』の帯に「前作」にあたるという本書についての言及があったので、「ではまず」と手にとったものです。『王とサーカス』の方は図書館で600数十人待ちとなっていたので、実際に読むのは相当に先でしょう。

本作に先立つ「古典部」シリーズもそうですが、この人の作品は部活もののお話に出てくるより平板そうな「ふつうの学生」の日常生活と、ミステリーにつきものの探偵的パーソナリティをものぐささのポーズで隠蔽した主人公、そして時間的・空間的な隔たりを飛び越えて主人公たちの身近に突如顔をのぞかせる社会・経済的なテーマ──それは窃盗罪のような刑事的な話題だけでなく、本作で描かれる国際紛争や『氷菓』で描かれた学生闘争も含む──という3つの組み合わせに特徴的なようです。

それで、本作で登場する「想像の共同体」「伝統の創造」といった用語にはクスリとしてしまうとともに、なるほどと思うところがありました。前述の三要素のとくに最後のものは著者の来歴、学生時代の関心と関わっていたわけです。アンダーソン『想像の共同体』もホブズボーム『創られた伝統』も、わたしやわたしの1つか2つ上の世代にとって、とくにエスニシティ社会学や民主主義の政治史学に関心を持つ者にとってのちょっとしたバイブルになっていましたからね…。

読後感はかならずしもよいものではありませんでしたが、お話はおもしろかったですし『王とサーカス』にも一層期待が持てました。