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オースティン『マンスフィールド・パーク』

マンスフィールド・パーク (ちくま文庫)

マンスフィールド・パーク (ちくま文庫)

紹介文では「恋愛小説の達人で、皮肉とユーモアを愛するオースティンが、あえて道徳心の大切さを訴えた円熟期の作品」ということだけれど、読後感としてはオースティンの他の作品とのちがいは別のところにあるように思われた。

私からすると重大なちがいは、本作の主人公の出身階層がジェントリーでなく、したがってジェントリーを構成する人びとが感じる自負や羨望、優越感や危機意識、教養や上品な振る舞いといった社会空間上の移動に関連する強い関心を、周囲の登場人物や他のオースティンの作品の主人公たちと共有していないことにある。

自負と偏見『エマ』『説得』などは、それが主題であるかどうかとかかわりなく、主人公たちが「安定しているようでいて実は不安定な上流階級」に属していることを前提にして、精神的な成長とか葛藤の克服だとかを描く点で一致している。

このちがいが結果するところは(私からすれば)けっこう大きいもので、そうした「ゲーム」が行われている空間からある意味で超越したところにいる本作の主人公ファニーを中心に展開する物語はあまり面白みを感じられなかったというのが正直なところ。

こうしたちがいに比べると「道徳」うんぬんは、主人公や彼女が思いを寄せる青年がことあるごとまとまったかたちで「意見」を述べているという以外であまりちがいとして感じない程度のものであった。もとよりそういった差異化・卓越化(distinction)の概念とそれに関わる会話というのは、オースティンの作品の中で中心を占めるものであるので。