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コミック版『風の谷のナウシカ』

風の谷のナウシカ 1 (アニメージュコミックスワイド判)

風の谷のナウシカ 1 (アニメージュコミックスワイド判)

アニメ版と設定の異なることなどは人から聞いていたけれど、実際に読んでみるとずいぶんと含意の異なるものになっていることがわかった。

アニメ版のテーマというのは単純化していえば人間と自然、人間と人間のあいだの調和を目指す意志であり、ストーリーはカリスマによりもたらされたひとときの平和のシーンで終わる。

それに対してコミック版ではテーマは当今の世界に生きるすべての被造物たちのあいだの調停と、それにとどまらず彼らの生の主体性を脅かすところの超理想主義的・非人間的な歴史的介入に対する拒絶・・・という一段深いものになっている。(7/16追記: この「現在世界に対する過去世界の介入への拒絶」というテーマは、1970〜1980年代の左派思想史と関連づけてみるべきかも知れない。)

こちらのストーリーは、被造物たちが血みどろの戦を繰り広げたすえに人間世界のほぼすべてがいったん焦土と化したところで終わる。
そこには二重の「黄昏」二重の「希望」が描かれている。ひとつには一層生きにくくなった世界、より一層困難な再生を必要とする世界があり、またひとつには「腐海」が地上世界を浄化し尽くしたあとにやがて訪れるべき試練がある。

そういう「葛藤」にも関わらず私たちは「生きねば」ならない、いろいろな「業」を背負いながらも生きることをやめるわけにはいかない。これは「もののけ姫」でも主張されていた考え方。なるほど宮崎駿というひとはこのテーマを基調にして作品づくりをしているらしい。

余談として、終盤の物語を読むにつれて、本作が『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』だけでなく、『Ergo Proxy』にも著しい影響を与えているらしいことを知った。