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一穂 ミチ『きょうの日はさようなら』

きょうの日はさようなら (集英社オレンジ文庫)

きょうの日はさようなら (集英社オレンジ文庫)

この作家さんの他の作品群とパッと見にもジャンルのちがっている作品。宮崎夏次系の表紙に興味をひかれて手に取りました。

夏休み。突如告げられる従姉妹の存在。四半世紀の年月を冬眠状態で跳躍してきた女子高生。過去の出来事を原因に冷えきってしまった親子関係、何層もの安全柵を張り巡らせてお互いを遠ざけておくことを旨とするような人間関係、熱狂とは商業的にせよ政治的にせよ作為的で内容空疎なもの、熱心さ・ひたむきさとはそれが無害な暇つぶしのゲームに向けられているときだけリスクと無縁でありうるものというような主人公の思想。そういったものが彼女の登場によって動揺させられる。抽象化すればそんな感じです(抽象化しすぎ?)。

正直に言って主人公の「21世紀の私たち」の生き方は嫌いではありません。境界線を20世紀と21世紀の間に置くべきかどうかはともかくとして、何事にも過剰防衛的に冷めた態度で臨むことは、それはそれで真剣で切実な思想=実践であり、20世紀後期の社会・経済に希望と失望の双方を体験した世代の、その次の世代の態度としてとても合理的なものであるように感じます。またとくにコミュニケーションの距離感についていえばそれは今しも鋭意継続中の「文明化の過程」の歴史のなかにすんなり自然に位置づけられると思います。

まあしかしそのような日常が突拍子もない来歴の人物の闖入によってかき乱される様を見る(読む)というのも面白く、またひとつの「回復」「統合」として好印象を感じるのはなぜなのでしょうね・・・。