角山栄『茶の世界史』
茶の世界史―緑茶の文化と紅茶の社会 (中公新書 (596))
- 作者: 角山栄
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 1980/12
- メディア: 新書
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いろいろ違和感を感じる作品である。
極東の島国の「茶の湯」文化や海洋帝国の「紅茶」文化について論じるときその担い手として言及されるのは王侯貴族と上流階級たちなのだが、一方その文化とぴったり対応するものとして仮定されている茶の消費について論じるときには暗黙の内に近代的なネーションが想定されている。
「東洋文化のシンボルとしての茶」が西洋人──とりわけイギリスをして中国へのコンプレックスをかきたてさせて、その帝国主義的姿勢を惹起したというくだりには、まったく説得力を感じない。というかむしろ著者の論述一般への不信感がつのる。
プランテーション経営に関する議論のなかで著者のことばとしての(つまり史料の引用ではなく著者の生の言葉としての)「インディアン」とか「ニグロ」といった表現があらわれることは、本書の執筆が1992年に先んじること10年以上まえのことであるからもう「仕方のないこと」として諦めるべきなのだろうか?
──とまあそういうわけで、ブリテン島社会に徐々に茶が普及していく過程の概説としてはともかく、本書にそれ以上の何かを期待できず途中でリタイアしてしまった。