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M12i.

学術書・マンガ・アニメ・映画の消費活動とプログラミングについて

柚木麻子『本屋さんのダイアナ』

本屋さんのダイアナ

本屋さんのダイアナ

ややコメディー風味というか、作為的=様式的な展開があって、しかも出版業界を扱っている。そこらへんから『私にふさわしいホテル』を連想させる作品。

テーマからしてしかるべくというか、作中では女性文学の古典への言及がとても多い。「現実的」に言えば、ダイアナや彩子はあんな風に勘違いしないだろうし、武田くんは(あるいは武田くんのような社会的な位置にいるひとは)あんな理知的なしゃべり方はしないだろうけれど──そしてそれは作者のみる「可能態の世界」がなせるところの誤認かもしれないし、あるいは意図的な逸脱を手段とした作者自身の思想表明なのかもしれないけれど──、それすらオースティンをはじめとした先達への参照とも見えてくる(彼らへの参照を繰り返すことで「出版に携わる人びと」のコミュニティは形成されていくわけである)。

それにしてもこうして非常に自己言及性の強い作品を読んでいると、文化的生産活動に限らず、ひとの生産活動全般にある、消費者は自身生産者になりもすれば他者を生産者として創り上げもする、そうして創り創られた生産者がまた消費者を創る、という再帰的な過程のイメージが浮かんでくる。もっともそうした過程をこうして説明・呈示できるのは出版や映画のような「映す」文化生産に限られるのか──とか、そういった本筋と関係ない思考がはたらいてしまう。それはそれで楽しいのだけど。


柚木麻子『私にふさわしいホテル』 - M12i.