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学術書・マンガ・アニメ・映画の消費活動とプログラミングについて

小路幸也『小説家の姉と』

小説家の姉と

小説家の姉と

小説家の「姉」と学生ながら編集者としての才能を見込まれたりもする「弟」、その友人と恋人たちのお話です。「姉の秘密」が匂わされるところから物語は始まりますが、本格的な謎解きや冒険の類がはじまるのではなく、主に描かれるのは日常的な事項です。

どんな業界・分野でもそうですが、何かしらの「材」を生産するグループとそれを消費するグループとがいます。もちろんそれは相対的なものであって一方からもう一方へと濃度勾配を持っているわけですが。より生産に強く関与している側のグループによるリフレクシブな生産物(例えば、歴史家が歴史学史を、社会学が科学哲学を、そして小説家が小説家や編集者を描く)が登場するのは、その業界・分野の層の分厚さを表していて、そういう作品を読めることはなんだか贅沢というか、しあわせなことのように感じます。

物語がわりと「普通」なだけに、例によってのそんな筋違いの感想がいつもより際立つ感じでした。