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深緑野分『分かれ道ノストラダムス』

分かれ道ノストラダムス

分かれ道ノストラダムス

ずっと「分かれ道」と「ノストラダムス」のあいだに「の」を脳内補完していたことに読了してから気が付きました。1999年7月、終末の予言が指し示したとされる月のとある街を舞台にして、高校生の主人公とその友人たちが、過去への後悔や身近な人の死や差し迫る「終末」への恐怖、将来への不安などを乗り越えつつ、カルト教団を裏で操る人間の悪意に立ち向かうというお話です。読後感としては、すごく、というほどでなく、期待通りふつう、でした。作中には「当時」を連想させるキーワードやアイテムがいろいろ登場して、ちょっと懐かしい感じもします。

ノストラダムスあり、サリン事件あり、9.11ありの20世紀末。私の周囲にも「宗教」に対する率直で無邪気でナイーブな嫌悪を表明する人もそれなりに居たように記憶していますが、一方で私の自宅がある地域にはいくつかの新興宗教団体(20世紀前半設立のものも含め)の拠点やその信者がわりと住んでおり、「伝統的」なキリスト諸教派の教会も点在していて、そういったコミュニティ/ソサイエティに属している人たちはどんな思いで当時を過ごしていたのかなと思ったりもします。もちろん自らが置かれた状況も知らず迂闊な意見表明をしていた人たちのメンタリティは当時から不思議に思っていましたが。

作中で「宗教」は人の依存や精神的充足をこれ見よがしに象徴する(象徴させられてしまった、象徴として祭り上げられてしまった)ものにすぎないという認識がそれとなく示されているようですが、当時も今もその点は意識してものを見ることの重要性は変わらないなと思いました。