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S・ムカジー『がん ‐4000年の歴史‐』

がん‐4000年の歴史‐ 上 (ハヤカワ文庫NF)

がん‐4000年の歴史‐ 上 (ハヤカワ文庫NF)

おびただしい数の文献を読み漁ってある分野の歴史叙述を編み上げる人がたまにいますが、本書の著者もその一人です。文庫の上下巻として発刊されていますが、巻末には数十ページにおよぶ原註と参考文献のリストがついています。その記述はアメリカを中心として、とくにこの2世紀の間に徐々に加速してきたがん治療と研究における成功と挫折を、鳥瞰しては急降下しまたそこから急上昇して・・・というふうに往復運動をしつつ描き出していきます。

医者であり学者であり、かつまたおそらく大変な読書家でもある著者のもとで、「がんの歴史」は個々の患者たちが体験した圧倒的な病の経験とゆっくりと統合されていきます。予想だにしなかった寛解後の日常のなかから病を振り返る元白血病患者や、薬剤耐性となったがんの再発に遭遇し自身の人間としての生の尊厳を守ろうとした今は亡き消化器系のがん患者の描写は印象的です。。。

それにしても。上巻の後半の記述を読んでいて、20世紀末も後半にいたってなお、外科的にも化学療法的にもがん治療というものはかくまで狂気じみたもの、根絶のためには身体の「がん以外」の部分までをも跡形をなくさせ死の淵に追い詰めていこうとするものだったのか、とだいぶ引いてしまいました。