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学術書・マンガ・アニメ・映画の消費活動とプログラミングについて

島本理生『七緒のために』

七緒のために (講談社文庫)

七緒のために (講談社文庫)

この作家さんの本は(も)はじめて。デビューのころに執筆して文芸雑誌に掲載されていたもののようです。

しばらく興味関心が散漫な上にじっくり本を読む時間的な余裕も気力体力もなく、それは今も同じですが本書は分量(文量)がごく少ないのでどうにかなりました。短編であるためか登場人物が少ないのと、それぞれの登場人物の性格付けにおいても、その出自、文化資本や人間関係資本というべきようなものについての言及はほぼありません。そして、それでもこんなに緊張感のある作品が書けるのだなぁと感心します。

「学校」というのは今日では同化と異化(差別化・卓越化)のゲームの特権的な場所です。学校制度が、半ば意識的に半ば無意識的に、そして非公式の教育課程として小中高と終始一貫して教えているのが、まさしくこのテーマだと言ってもいいでしょう。そうであるにしても、またそうであればこそ、なぜ男子と女子とでこのゲームの持つ緊張感がここまで変わってくるのだろうか、というのは興味を惹かれる問題です。

著者はあとがきで「14歳」とか「女」とかの属性でもってさらっと説明してしまっていますが、人の行動を方向づけるのはその人の出自・来歴とそこから今現在保有するに至った各種の資本と、それを投資することで得られるであろうと想定される「可能性」の認識です。彼女たちがそうせざるをえない、彼女たちなりの理由。本書に収録された二編はいずれも、その濃密な文章の中に、そうしたものがちらちらと垣間見えるように編み込まれているように思いました。