M12i.

学術書・マンガ・アニメ・映画の消費活動とプログラミングについて

F・ブローデル『歴史入門』

歴史入門 (中公文庫)

歴史入門 (中公文庫)

アナール学派の泰斗、フェルナン・ブローデルの講演録。

邦訳の本書は『歴史入門』というタイトルなのだけど、原題は『資本主義の活力』。講演の内容も「歴史学とは」云々でなく資本主義や資本主義の発展の定義付けというべきもの。邦題の付け方に疑問を感じざるを得ないけど、あえて寛大に解釈すれば「ブローデル歴史学の入門」といった意味だろうか。

そういう意味で言えば、たしかに本書はブローデル歴史観をざっくり理解するのに適しているのかもしれない。それは非常に大雑把に言えば商業と資本主義の歴史ということになるか。とはいえそういう全体理解は脇に置き、第三章に登場する「世界経済」(economie modiale)と「世界=経済」(economie-monde)の対比、というかその対比で示される後者の概念がおもしろい。

「世界経済」は単に全世界的規模でみた経済状況のことを指している。一方「世界=経済」は、経済活動により組織され秩序付けられた、相対的に独立した地理的範囲であり、自律的な歴史を持ち、拡大と収縮、統合と分離、中心移動を繰り返す圏を指している。この範疇は万博の世紀において大英帝国のもと「世界経済」と領域的な一致を見る。

本書の中でしばしば参照・対比されるE・ウォーラステインの世界システム論と似ていて、それは現実であると同時に分析のための概念的なツールの意味合いが強いように思える。近代以前の地球上に分布していたヨーロッパ以外を中心とする世界=経済への言及は東アジアの中華思想の世界の歴史学とも観点が相通じていて──どちらが学術的に先行しているのかは不明だけれど──、なるほど歴史の巨視的理解に有用に思えた。

そういう点で収穫もあったが総じてブローデルがしゃべっていることの1割も理解できていない気がする。ともあれぺらっぺらの文庫本なのでとっつきやすさは抜群であった。。