M12i.

学術書・マンガ・アニメ・映画の消費活動とプログラミングについて

千早茜『あとかた』

あとかた

あとかた

この人は性的関係にこだわるな、と思う。

描かれる人物たちの性格付けや置かれた立場はもちろん章ごとに異なるけれど、肉体関係やそれを前提とした小さな小さな生活単位に最終的なアイデンティティのありかを求めているところは変わらない。まあそれを言ったら世間一般大概の人がそうなのかもしれない。

人間個人が時間的・空間的な有限性とそこから生じる無力感を克服できるとすれば、概念的なものであれ現実的なものであれ、他の人間個人その他身の回りへの共感だとか依存だとかをとおして、自分自身を別のなにかに同化させることによってしかないのだと思う。そうであるならその克服方法の具体的なかたちが、ヘテロセクシュアルなものであれホモセクシュアルなものであれ性的関係にもとづく共同性に求められてもいい。それは私にとっては「当たり前」ではないけれど、現代社会の人間関係の中でふつうに感情教育を受けてきたなら「当たり前」になるのではないかと思う。

そのドメスティックな傾向にちょっと不安を感じないでもないけれど、どうせ正解などないテーマである。この違和感を愉しみたい。