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オースティン『ノーサンガー・アビー』

ノーサンガー・アビー (ちくま文庫)

ノーサンガー・アビー (ちくま文庫)

オースティンから見た18世紀末・19世紀初頭の中上流階級の社交世界のパロディ。主人公には、中流出身で世間(社交界)を知らず読書(ゴシック小説)にはまっているという、はなから「誤解」「誤読」の喜劇のために選び抜かれた属性が付与されている。

主人公が「世間知らずのお嬢さま」と設定されているため、『自負と偏見』の主人公が示したような「知性」を持つ女性が出身クラスや上位のクラスを前にして持つ分裂気味な自我は、本作では登場しない。

それにしても本作や『自負と偏見』を読む限り、ようするにジェイン・オースティンとしてはこう言いたいようである。

ジェントリークラス出身の女性の前に現れる男性には三種類ある。気取った言動は軽薄の極み地位の上でも財産の上でも主人公に幸福をもたらせられない同クラスもしくは下位クラスの男、地位も財産も名誉も完璧に約束されるが尊大にすぎて人格的には我慢ならない上位クラスの男、そして女性の「教養」や「人格」を理解し地位や財産はもちろん愛情の面でもより多くのものを約束してくれるより上位の爵位を持つクラスの男である、と。

作家や作家と同時代・同年代の人びとが意識していたであろう「選択肢」や「制約」を表現するこういう作品は好みである。