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酒井健『バタイユ入門』

バタイユ入門 (ちくま新書)

バタイユ入門 (ちくま新書)

職場で出会った哲学専攻の人から教えてもらった入門書。序文が面白い。人文科学系諸科学の学史のなかでも、現代哲学史というのは畢竟現代思想史であり、観念的な次元でものの是非をする人びとの歴史であるために、ディスタンクシオンの遂行される様を観察するのにとくに適した領域なのではないか、と。

──それにしても。バタイユが人間存在の本質として捉えたものについて想像し共感することはある程度は可能ではある。

けれども──これはニーチェハイデガーにしてもそうだけど──「ブラックボックス」の内側を分析するというよりは想像し、種々の連想をもってそこに意識を同化していこうとする行為に、個人のトラウマ治療以上の意味を感じない。

人間存在の個人のレイヤー、つまり人間の精神という「ブラックボックス」の成り立ちや働きというのは、いずれ、相当先のことかもしれないけれど、情報工学分子生物学、神経医学により解明されるべき事項であり、また社会のレイヤーは社会学文化人類学が解明していく事項であり、いずれにしてもそれらはバシュラールが言うような意味での「科学」のしごとであろうし、私としてはそうあってほしいと思う。