M12i.

学術書・マンガ・アニメ・映画の消費活動とプログラミングについて

老化の進化論

最後まで読んでいないのでなんとも言えないけれど、著者が意識しているのかしていないのか、本書内では「老化を遅延させる」機構もしくは「老化しても個体を生きながらえさせる」機構の問題と、「老化を引き起こす」機構(したがって老化を現にあらしめ、それを除くことで老化をなくさせられるような機構)の問題とが混同されているように思う。

もっともそれを言うならば、そもそも「老化」の定義自体がされていない。実際にはまさしくそこが問題の核心であって、本来であれば「老化」というあきらかに多義的で多くの異なる区別されるべき現象をひとまとめにしている概念を、科学的に意味のある単位に分解してその個別について研究を行うのが筋なのであって、そこに言及せずそれどころかごまかしてさえいるような雰囲気のある本書は、科学の紹介や導入書としてみればまずい出来なのだろうと。

また本書内で頻出する進化論の比喩は、まさに比喩として読んでいるのであればよいけれど、誤解のもとになりうるのではないかと心配になってしまう。多用されている比喩は、ある生物種の個体群の世代をまたぐ全体の傾向としてあらわれる進化や形質の問題を、ある特定の世代の特定の個体の、その一生における特定の瞬間の体質や能力の問題として理解させるための罠になっている気がする。