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学術書・マンガ・アニメ・映画の消費活動とプログラミングについて

『テルアビブ・オン・ファイア』は面白い


映画『テルアビブ・オン・ファイア』予告編

パレスチナの人気テレビドラマ『テルアビブ・オン・ファイア』の脚本制作に関わることになった青年が主人公の映画。主人公やその周囲の人びと、検問所で関わり合いになるイスラエル軍人も含め、登場人物のそれぞれがそれぞれの仕方で、半世紀も続く終わりなき対立にうんざりし諦めを感じている。そうした中で劇中の人間模様と劇中劇の人間模様がオーバーラップしながら進行する。ドラマのクライマックスと現実世界を生きる自分たちの未来はどうあってほしいのか。生か死かの闘争も非現実的なロマンスも、どちらにしろ自分たちが望むものではない。次々現れる障碍を乗り越えながら最終的に主人公はどのような「脚本」を書くのか──という感じのお話。分断された私たちの生活世界を再統合し、対等な関係を気づくにはどうしたらよいのだろう。困難ではあってもそれを考えていこうじゃないか。そういうメッセージを強く感じた。

若尾政希『百姓一揆』

百姓一揆 (岩波新書)

百姓一揆 (岩波新書)

一揆」の実態はどのようなものであったか、それは時代ごとにどのように異なっていたか、現代の私たちが思い描く「一揆」イメージだけでなく、「一揆」を語る史料の記述がどれくらいまで実態とかけ離れているか、そのズレがどのように生み出されてきたか。「一揆」という歴史学の概念の研究を通じて、科学的な概念がどれほどまでにフィクションの世界と地続きのものであり、学術的な努力の積み重ねが「場」の外の要因に左右されながらも、その概念の理解を徐々に正確なものとしていく様が示されている。科学の科学、知識社会学、科学哲学論の材料として読むと面白い。

八鍬友広『闘いを記録する百姓たち:江戸時代の裁判学習帳』

「目安往来物」というジャンルから、中世近世の「一揆」のあり方や百姓身分の識字教育のあり方、そして「一揆」の語り方と創作作品との関連性などを示唆してくれる書。

ただ、資料や研究のテーマの都合、ある程度は「木から森を想像」的な見方が必要なのかと思うが、発生も伝播もある程度限られた事例・地域にとどまっており、これだけを以てどこまで一般性の問題を論じられるのか若干疑問に感じるところあり。また分析の視点にやや自生的もしくはナイーブな感じを受ける。もちろんこうした地道な研究とその中での仮説提示が学術的な知の成熟の礎ではある。