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学術書・マンガ・アニメ・映画の消費活動とプログラミングについて

住野よる『か「」く「」し「」ご「」と「』

か「」く「」し「」ご「」と「

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この人の作品を読むのは初めて。文体はとても読みやすい部類。ひとの「感情」、気分の浮き沈みや喜怒哀楽や恋愛対象なんかを記号という形で視覚的に知覚する特殊能力を持つ5人の高校生を主人公とするお話です。

設定は設定として割り切ってしまえば面白いお話です。だけどやっぱり感情が明確に知覚可能なメトリクスで表現される世界というのは変な感じです。つまり表情や身振り手振りの一次情報を解析・解釈して、感情を代弁する二次情報にして・・・というのがない。明確に定義付けされた情報がそこに所与のものとしてある。なんだかTVゲームっぽい。しかし人間という数十兆個の細胞からなる生体ステートマシンの持つ「状態」≒「感情」なんてものは畢竟観測不可能。いわんや記号による観測などとは、と。「否、そうであればこそ観測可能なものこそが事実そこにある『感情』なのだ」という立論はありうるとして、本書がテーマとしているのはそんな表面的な何かではないようです。

もちろん、人間は知覚した対象のカテゴライズを通じて秩序のないところに秩序を打ち立て、差異のないところに差異を作り出し、以て自らの知覚そのものの基盤とする生き物です(鶏と卵の関係)。記号として表現された作中人物たちの「感情」のリアリティはそのような意味で認められるべきなのでしょう。同じように本書中に登場する「友情」と「恋愛感情」の間の妙にさっぱりした線引きもそうですが。ま、こういう色々を考える切っ掛けをくれる作品はいい作品だと思います(と、乱暴にまとめ)。