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渡辺優『自由なサメと人間の夢』

自由なサメと人間たちの夢

自由なサメと人間たちの夢

この人の一人称小説が好きです。

『ラメルノエリキサ』の主人公のようにアイデンティティを苛む劣等感から自身を護るために過剰に攻撃的な態度をとったり、本書収録「ラスト・デイ」の主人公のように、不意の・所与としての死への恐怖の反転ともとれる意図された・獲得される死への衝動に突き動かされたり。

そういう多分に自覚的な狂気の中をいかにも愉しげに・必死に生きる彼らが、物語を通じて結局はわりとまっとうなところに落ち着いていく、自分自身とそれを取り囲む家族だとか友人だとかのなかに再統合されていく姿というのは、ちょっとさびしくもあり、またちょっとほっとさせられてしまうところもあり。

にしてもやっぱり短編よりは長編のほうがいいなぁ、と。