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柴崎友香『春の庭』

春の庭

春の庭

世田谷の、おそらくは北西部、小田急線と世田谷線の交差しているあたりの、細くてくねくねとした路地を持つ地域を舞台にしたお話です。まあお話といっても、「物語」という感じではないです。築うん十年で取り壊しも決まっており、住人も徐々に退去しつつあるアパート。主人公の数年前に離婚したあとこのアパートに越してきた三十過ぎの男。彼と同じアパートの住人や近所・職場の人間とのやりとりが描かれていきます。

ふと気づくと一軒また一軒と空き家になり更地にされて建て替えされていく街並み。結婚を機に北海道に越していく小さな職場の同僚。もう新たな住人を迎えることもなく、したがって新たな・今より親密な住人同士の人間関係を育むこともないアパート。そして次々と住人が変わり、物語の終盤にはドラマ撮影のロケに使用されることになる近所の洋館風の一軒家。これらのすべてが、この「街」の、あるいは主人公の「生活」の、一過性でどこまでも淡白な人間関係を象徴しているようです。

てんでばらばらな植物の繁茂に、どこか荒廃したイメージも感じる「春の庭」という題名。たしかに上述の作品の内容と合っているかもしれません。ともあれ自身もその一員でありながら、そうした「街」の生活をどこか鳥瞰しているような主人公の視座でどこまでも淡々と記述されるお話は、正直なところ退屈でした。。