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学術書・マンガ・アニメ・映画の消費活動とプログラミングについて

額賀澪『タスキメシ』

タスキメシ

タスキメシ

前作同様の複数主人公の視点の語りから構成されていて、今回の主人公は故障で引退状態の陸上長距離走選手と弟、その友人、そのまた友人の料理研究部員。面白いのは登場人物のいずれもが自分たちに割り振られた章の中ですら、「本心」「真意」を語ることを意識的に回避して先延ばしにしようとしていること。結果的に登場人物各々の心の中は彼ら相互に対してだけでなく読者に対してすら隠されていて、そのことから「ほんとうのこと」を知りうるという読者の特権的な地位が一時的にせよ無効化されて、半ば登場人物たちと同じ地位に引きずり降ろされているような、ちょっと不思議な感覚になる作品でした。