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菊池良生『検閲帝国ハプスブルク』

検閲帝国ハプスブルク (河出ブックス)

検閲帝国ハプスブルク (河出ブックス)

珍しく中東欧系の歴史本を読んでみました。神聖ローマ帝国からオーストリア帝国までの、帝国レベル、そして領邦レベルそれぞれにおける検閲制度の変遷を概観する内容です。

著者いわく、これまでの検閲に関する歴史の研究というのは、ともすれば検閲する側(国家や協会)と検閲を受ける側(学者や作家、宗教家など)のあいだで繰り広げられる機知と滑稽の(ということはたぶんに劇化された)エピソード史としての側面が強かった、そこを脱してより総論的・理論的な歴史を描きたい、ということ。

・・・なのですが、検閲制度の歴史が結局は時代々々の皇帝や国王や司教たちの野心、出版業者や書籍商、そして著作者たちの思惑などに起因する個別的なできごととして表象されていること、そして帝国レベルや領邦レベルのできごとが時間的に頻繁に前後しながら論述されていることから、全体にまとまりなく理解しづらいエピソード史の集合体のような感じになってしまっています。

まあ制度史なんてこんなもの、ということなのかもしれませんが、本書の中でもときたま触れられている「検閲」の対象や検閲する主体の変化だとか、その背景にある思想の変遷だとか、あるいは「検閲」を支える(逃れる)技術の発展だとか、そういった観点からの体系的な論述があればもっと面白かったのにと思います。