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学術書・マンガ・アニメ・映画の消費活動とプログラミングについて

辻村深月『島はぼくらと』

島はぼくらと

島はぼくらと


もともと何冊か読んでいる作家さんだし、五十嵐大介が装画をやっているのにも惹かれて読んでみたいと思っていた本。はじめ文庫になるのを待とうと思っていたのだけれど結局単行本を手にしてしまった。

瀬戸内の島を舞台にして起こるあれこれの事件をとおして、主人公四人やその両親・祖父母たちの同級・友情関係、網元を中心とした権威主義的な家どうしの主従関係、男性同士の任意で公的な扶助関係である「兄弟」、村興しのために設立された会社を中心にした母親同士の間柄、そしてしばしば寝食をともにすることで成り立つ日常のよりプライベートな親密さの世界──いろいろの「組織」(人間関係)のあり方が描かれる。

物語の中で、村長と網元という新旧の権力とそれを中心とした「組織」は、はっきりと批判的な言及の対象となっているけれど、それ以外のものにしても常にほかとの関係の中で相対化されて語られているのが面白いところ。

概して男性社会よりも真剣で切実なものとして実践されることになる女性社会の友人・知人関係を主題としたお話は好きだし、この作品のように関係の形式それぞれのよいところもわるいところも相対化させて見せてくれるお話はなお良い。

ひとまずお腹いっぱいになったので、中断していたヴァージニア・ウルフに戻ろうと思う。