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ジョン・W・ダワー『容赦なき戦争』

容赦なき戦争―太平洋戦争における人種差別 (平凡社ライブラリー)

容赦なき戦争―太平洋戦争における人種差別 (平凡社ライブラリー)

ジュンク堂小熊英二書店のキャンペーンで見かけたもの。学生時代、個人的な印象としては、1945年の敗戦前後の日本史、とくに政治・思想史に関する「古典」として、ジョン・ダワーの名前はおそろしく知名度があったものに思える。それはもう社会学におけるマックス・ウェーバーやテンニース(これはちょっと古すぎる?)のような感じで、同種のものにベネディクト・アンダーソンの『想像の共同体』があった。そんな感じ。実際はどーだったのだろうか?

彼の名前をそのように有名なものとしているのは『敗北を抱きしめて』だけど、本書はそれに先立つ作品。第二次世界大戦、とりわけ太平洋戦争において、日本とアメリカやイギリスの両政府や知識人、マスメディア、印刷媒体が大いに生産流布させた人種主義的言説のおびただしい実例の数々を示しつつ、それらがヨーロッパ戦線やとくに中国人を対象とした米国内のアジア人差別とどう異なっていたかを論じている。

論述にあたっては多くの例が引かれているけれど、日米両側で生産された言説の源泉や文脈となっているものについての考察はちょっとざっくりと単純化されすぎている感があった。数百年前にまでさかのぼるこの列島の古文に現れた思想がそのまま現代に生き延びて、それと近代欧米の帝国主義的言説/オリエンタリズムや戦時下アメリカにおける人種主義的言説が反応して、太平洋戦争下の日本側の言説を形づくった、そんな単純化されたビジョンで議論がなされているところがあるように感じた。

こういう不満を言うときに念頭にあるのはそれこそアンダーソンの『想像の共同体』であったり小熊英二の『単一民族神話の起源』『〈日本人〉の境界』などであったりするわけだけれど・・・。