M12i.

学術書・マンガ・アニメ・映画の消費活動とプログラミングについて

新海誠『言の葉の庭』

新海誠の映像はやはり空の描写がよい。今回はそこに梅雨の雨に濡れた都市のビル群と緑地。この季節選びと演出がすごく重要。雨がなかったらこの作品の映像美は半減しそうに思う。空の青や赤とコンクリートの灰色、公園の樹木の緑という3部のコントラストと、木の葉や路面を濡らした雨水の反射する光の描写の組み合わせがとてもきれい。きれいすぎて雑味が抜かれてしまっているのが新海誠流。

同時上映の『だれかのまなざし』は野村不動産の住宅ブランドPROUDの長ーいCM。そこから今回の彼の作品で表明されている価値観、あるいは、野村不動産が2つの作品から拝借して自身のブランドに付与してみせようとした表象というのが想像される。都市計画のもとつくられた高層建築や完全に人造の緑地空間への積極的評価、個人や家族の各ステージの対応する住まいの変化、非日常的でプライベートな物語に、うってつけの舞台を提供することのできる建築・・・。いずれも20世紀末期以来表明されてきた、都市建築への否定的評価、あるいは否定までゆかなくても非人間的であったり退廃的であったり、ひび入りさび付いて薄汚れた、停滞した、退屈な日常空間の舞台といったイメージへのアンチテーゼである。

舞台は都市空間だけれど、現実の都市空間には求められないものを、しかるべく演出を施されたフィクションの都市空間に求める。もちろんライフスタイル選択の実践──何を飲み食いし、何を見聞きし、何を身にまとい、そしてどこに住まうか──というのは、自身にとって半ば現実、半ば想像の世界を再構築する試みであるわけだけど。ただちょっと白けてしまうところもあった。