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紅の豚

紅の豚 [DVD]

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個性的な登場人物たちと、彼らが生きる時代背景とがこの作品を魅力的なものにしている。
この点、当然人により捉え方はことなるだろうけれど、この作品は「自由を愛する男たち」の物語ではないと思う。

主人公ポルコは戦争でつぎつぎ友を失ったあと、国家や政治どころか人間社会そのものに失望してしまっている。“豚”の姿は彼の人間社会に対する“姿勢”の暗喩にほかならない。だからポルコの姿が元に戻ったことを示唆する最終盤のシーンは、程度はどうあれ彼が人間社会の側に立ち戻ったことを示している。物語が言葉の日常的な意味で「政治的」でないとしたら、それはポルコの立ち位置というのがまさにそうした人間的活動への拒否をもって示されているからである。

彼とやり合う空賊たちは好き放題やっていて、例え口ばかりであっても賞金稼ぎと対等にやり合っている。けれども国軍が動けば大急ぎで退散しなくてはいけない。ようするに国家の目を逃れ/逃されながら、隅っこのほうで生きている。だから彼らが空の上の盗賊という、地上の世俗社会からの二重の逸脱をイメージさせる職業に属していることはとてもアイロニカルである。

空軍に残ったポルコの友人や幼なじみのジーナも含めて、登場人物たちは国と国、国民と国民の間の戦争の歴史と、今まさに新たな戦争に投入する現在とに、強烈につなぎ止められている。そういう意味ではかなり脳天気というか楽天的に物語に首を突っ込んでくるかたちのフィオやカーチスは、ポルコの「再生」のための契機を提供する超重要人物なわけである。

そしてこうしたあまり軽くないテーマを陽気に仕立てて成功しているのがこの作品の魅力のひとつだと思う。